退職金の受け取り方で税金が違う?一括と分割のメリット・デメリット

退職が近づくと、会社から退職金の受取り方について確認されます。退職金は一括で受取る方法と、分割で受取る方法、または両方を合わせて受取る方法などがあります。受取り方で税金も変わってきますので確認しておきましょう。

今回は退職金の受取り方について、税金の違いやメリット・デメリットをお伝えしていきます。

一括で受取る方法

退職金を一括(一時金)で受け取る場合、「退職所得」は他の所得と合算せずに分けて計算を行う「分離課税」となります。長年の勤労に対する報償的給与としてまとめて支払われるものであること等から、税負担が軽くなるよう配慮されています。

退職所得の計算式は以下のとおりです。

  • 収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額(※)×1/2=退職所得

※退職所得控除額の計算方法

・勤続年数が20年以下の場合

40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)

・勤続年数が20年超の場合

800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

<例>退職所得控除の計算例

勤続年数が37年の人の場合の退職所得控除額

800万円+70万円×(37年-20年)=800万円+70万円×17年=1,990万円

 

勤続年数に1年未満の端数がある時は、たとえ1日でも1年として計算します。また、前年以前に退職金を受け取ったことがある時、または同一年中に2か所以上から退職金を受け取る時などは、控除額の計算が異なることがあります。

退職一時金を全額一時金で受け取る場合は、健康保険、雇用保険、厚生年金保険等の社会保険料がかかりません。また、退職後に国民健康保険に加入する場合は、国民健康保険料を支払う必要がありますが、保険料の計算で対象となる前年度の所得からも対象外となっており、社会保険料の面でも優遇されています。

分割で受取る方法

分割で年金として受け取る場合は年金の収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用され、控除額を超えない金額に対しては税金が免除されます。退職金を分割で受取る金額と、公的年金等とを合算して計算されます。

控除額については国税庁ホームページで確認して下さい。

公的年金にかかる雑所得の速算表(国税庁)

  • 計算例:令和2年分以後

(1)年齢:65歳以上

(2)公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額:500万円

(3)公的年金等の収入金額の合計額:350万円

公的年金等に係る雑所得の金額は次のようになります。

3,500,000円×75%-275,000円=2,350,000円

それぞれのメリット・デメリット

どちらの受け取り方が「おトク」かは、状況によって異なります。退職金の受け取り方は、受け取り時の生活状況や資産状況によって異なります。それぞれのメリットとデメリットを確認しておきましょう。

  • 一時金(一括)のメリット

例えば、住宅ローンが残っている場合、一般的にローンの返済は早い方が得策です。残額にもよりますが、一時金として退職金を受け取り、住宅ローンの残額を清算することができます。また、一時金の場合は「退職所得控除」という非課税枠の適用があり、税負担は重くないと考えられます。将来支払う住宅ローンをゼロにして退職後の支出を抑えることができるというメリットがあります。

 

  • 一時金(一括)のデメリット

まとまったお金が手に入ると、気持ちが大きくなって無駄使いをしてしまったり、一度に多額の投資をして大きな利益を狙いたくなったりします。そこが一時金で受け取るデメリットと言えるでしょう。退職金という大金は、これからも続く人生に大きな役割があるお金です。計画的に使うという意識を持つことが大切です。

 

  • 分割のメリット

ローンや大きなお金が必要ではない場合、年金として受け取るようにすれば定期的な振り込みとなるため、計画的にお金を使えることができます。結果として使い過ぎを防ぐことができるというメリットがあります。また、受け取るまでは会社が一定の利率で運用を続けるため、総受給額も多くなります。

 

  • 分割のデメリット

一時金のような税優遇はなく、長期間に渡って課税対象になる点がデメリットとして挙げられます。大きな金額ではなくても、課税が継続されていくことは覚えておきましょう。

最後に

退職金の受取り方で税金が変わってくることが分かりました。一括で受取る方法と、分割で受取る方法を併用できる企業もあります。それぞれのメリット・デメリットを確認して、ご自身にあった受取り方を選択して頂きたいと思います。

早期退職などの場合はその後もお仕事をされていきますので退職金を一時金で受け取り、事業資金や資産運用に活用されることもお勧めしています。それぞれの生活状況や資産状況、退職後のプランも異なりますので、包括的にみて、どのように受取るかを決めて頂くと宜しいかと思います。本記事も参考にしてください。

 

 

筆者:藤井亜也(CFP/FP1級)