跡継ぎは「長男」の背景とは?相続の新旧制度について

昔、家は長男が継ぐもの、という概念や風習がありましたが今でもその価値観は根強く残っています。何故、長男が継いでいたのでしょうか。そこには昔の相続制度が関係しているのです。

今回は相続の新旧制度についてお伝えしていきます。

昔の家制度とは

家制度(いえせいど)とは、明治憲法下の民法において規定された日本の家族制度です。明治民法では戸主権と長男単独相続の家督相続とに支えられた戸主を家長とする制度で家族制度あるいは家制度と呼ばれていました。

家制度における「家」とは、現在の核家族のような家とは概念が異なります。「家」は「戸主」と「家族」から構成され、戸主は家の統率者であり、家族は家を構成する者のうち戸主でない者を言います。また、1つの家は1つの戸籍に登録されました。

皆さんも田舎へ行った際、「本家」や「分家」などの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。分家とは、ある家に属する家族がその家から分離して新たに家を設立することを言います。元々属していた家は「本家」と呼びます。

家やお墓は戸主が守り、引き継いでいきます。戸主を引き継げるのは原則、長男と決まっていました。男の子が生まれると、跡取りができたと喜んでいたのは、この家制度が背景にあったのです。家制度は1947年に廃止されましたが、1947年は和暦では昭和22年となります。昭和22年生まれの方は2024年現在77歳です。つまりご高齢のかたにとって家制度は身近なものであり、今もなお、その価値観や考え方は根強く残っているのです。

現在の相続制度は

現在の民法では相続人の範囲と法定相続分が定められています。死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

 

  • 相続人の範囲と法定相続分

1順位:死亡した人の子供

2順位:死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)

3順位:死亡した人の兄弟姉妹

 

法定相続分は以下となります。

・配偶者と子供が相続人である場合

配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2

・配偶者と直系尊属が相続人である場合

配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3

・配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合

配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4

 

例えば死亡した人の家族構成が配偶者と子ども2人(A,B)だったとします。法定相続分は配偶者が1/2、子どもA1/4、子どもB1/4となります。現在の民法では子どもの相続分は長男など関係なく人数で割ることになります。ここが新旧の違いとなります。

 

 

国税庁のホームページにも詳しく掲載されていますので、合わせてご確認ください。

 

価値観の違いを意識

遺言などで相続内容を定めていた場合、法定相続分よりも遺言が優先されます。あくまで法定相続分は遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分であり、必ずしもこの割合で遺産分割をしなければならないというわけではありません。

しかし、遺言で「誰か1人に相続する」といった内容で遺された場合、他の相続人の生活が困窮してしまう場合もあります。相続人においては最低限の取り分が決められており、   それを遺留分と言います。相続人は、遺留分が侵害されていた場合は遺留分に相当する金銭の支払を請求することができます。

つまり、これから相続についてご家族で話される場合、昔の家制度の考え方を尊重するかたと、その考え方がない世代とで話し合いをしますので、先ずは「新旧の相続制度が違う」ということを意識しておかなくてはいけません。

それぞれの価値観が違うということを念頭に、お互いの意見を尊重して話し合いをしていくことになります。昔はそのような制度のもと、家が継承されていった、ということを現代のかたも知っておく必要がありますし、逆にご高齢のかたは現在の民法に基づく相続制度を知っておく必要があります。

人生100年時代となり、3世代、4世代などが同じ時代で暮らしています。お互いの価値観の違いを認識しておくことは、とても重要です。

最後に

私が贈与や相続のご相談を受ける際、2件に1件、つまり50%の確率でこの問題にあたります。分かりやすい例でお伝えすると、「家は長男に相続する」というものです。他にもご兄弟がいるのですが、多くのかたが同じように仰います。 なぜなのか?そこには、今回お伝えした相続の新旧制度の違いが関係しているのです。

相続は誰しもが何度も経験することではないので、分からないことだらけです。相続対策をサポートしている私たちFPや税理士さんなどは複数のご家族のご相談を受けた経験がありますので、話し合いやサポートなどで役に立つと思います。 相続が争続にならないよう、新旧の制度の違いなどもふまえてご相談頂ければと思います。

 

 

筆者:藤井亜也(CFP/FP1級)